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管理人氷櫻音羽の自己満足小説の置き場所。不定期・亀足更新です。
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何処にでもあるような、桜の森。
何処にでもある、春の景色。

そこに、ただ一つだけ、あかいあかい、桜の花。

青い空に、薄紅のなかに、一つだけ。
ぽつんと、ひっそりと、堂々と。

その木は、人命を吸い取り花を咲かすという。
毎年、咲かす花は赤。
その度にに人が死ぬ。
この地の何処かで。

そうじゃなくても、いつでも、命は消える。

「そうだろう?」
桜は、呟く。
誰ともなく、ただ暗い空にぽっかりと白い穴を穿つ月に。

答えを受けることもなく、そして、其れを期待することもせず、はらり。と月光の中を薄紅の花弁に混じり、赤い花弁が風に舞った。

そんな、春が何度も過ぎた。
赤い花を何度もつけた。
不吉だと、人間は騒いで何度も斬ろうと木に、斧を、鉈を叩きつけ、炎を点けた。
それでも、その木は倒れることも、燃え尽きることもなかった。

いつの間にか、人喰い桜と呼ばれた。

そしてまた何度も春を過ぎた。
空が澄んで、暖かい風が吹く日に、1人の少女が桜に近づき、問うた。
「ねぇ、どうして赤い花を咲かせるの?」
澄んだ、他者とは見る世界が違う瞳が、桜の本質を捉えた。
桜は答える。
「人が、居るかだらよ」
だから、本質を答えた。
「じゃぁ、人の命を吸って咲くのは、ほんとう?」
彼女の首から下がった、水晶の勾玉が陽光を弾いて、桜と少女を照らす。
「…嘘でもないが、本当でもない」
命は吸わない。
「不思議ね」
集まってくるだけ。
「不思議?」

否。

風が強く吹いた。
花弁が舞った。
一寸先も見えぬ程。
陽光を跳ね返す、そのひかりすら、さえぎるほどの桜の花弁の嵐。

風が止み、あれだけの桜の花弁は全てその姿を消し、そしてあれだけたくさんの花が舞ったにも拘らず、どの木にも美しい花を湛えて、其処にあり続けた。


少女の姿だけが消え、ただ、ただ、血の色をした桜の木が一本。


その花の枝の中には、赤く染まった水晶の勾玉が、受ける陽光もなく、枝に垂れ下がり。


ただ、其処にあるだけ。

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