忍者ブログ
管理人氷櫻音羽の自己満足小説の置き場所。不定期・亀足更新です。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
氷櫻音羽
性別:
女性
カウンター
アクセス解析
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

闇が支配するその空に、針で引っかいたような細く紅い月が昇る。

全てを、血に染めるように…。

 

 

「藤菜…柳苑の、その瞳はなんだ…」

俺が指を指した先にいる父親は、驚愕の表情を浮かべつつも既に瞳には憤怒の情を宿してそう、つぶやく。

「貴方、違うんです!此れは…」

母親は俺を擁護しようと父親に縋りつく。

 

 

それを見て、俺は、なんと未練がましい、醜い場面だと。

 

酷く冷めた瞳でそれを見ていた。

 

 

――自分の母親が、自分を守ろうと、しているのに…。

 

俺はこのつまらない、閉ざされた一族など滅んでしまえば良いと、願っていた。

その願いは、過去に一族に厄災を招いた者、闇染零を招き…そして受け入れた。

それが、全て。

 

 

「言い分けは無用!…柳苑。来なさい」

 

縋る母を払いのけて俺の腕を掴み、引きずるようにして部屋から連れ出した。

袖の蝶が舞い、右目を覆っていた包帯がはらり、と舞う。

腕を掴むその力は強く、鈍い痛みを与えた。

ああ、痕になってしまうな…そう、思った。

 

 

連れ出された部屋からは、母親の慟哭が響いていた。

 

紅い月が昇る空に。

 

 

 

 

 

最初に連れて来られたのは、屋敷の奥にある座敷牢だった。

 

この場所が使われたことは今までにないらしく、そこはひどく冷たい空気がと黴の臭いが支配していた。

こんなところに入れられる。それが不愉快だった。

「不満か」

そう問われたが、答える気はなかった。

自分が入れられる牢を、ただ見つめていた。

「…やはり、つまらない子だ」

父親は、俺を見ることなくそう呟いてから座敷牢に俺を押入れ、さび付いた錠をかけた。

「これから、一族の者とお前の処遇を検討してくる…覚悟はあるな」

応える気は、矢張りなかった。

牢の上部、小さく開いた採光窓を俺はただ見つめ、沈黙を返した。

小さいため息が聞こえ、父親が踵を返しこの牢から出て行く音だけを追った。

 

 

暫くの沈黙のあと、俺は闇に問う。

 

「其処に、いるんだろう?」

闇の、採光窓からの光が届かない牢の隅。

闇が、のろり、と流れたように見えた。

「くくっ。何だ、面白いことになってきたなぁ…まるで俺の過去を、見ているようだ」

くつくつと、闇染零は笑う。声だけで。

「餓鬼。どうする。親父が帰ってきたら、殺されるだけだぞ…」

「解ってる…力をくれるんだろう?零」

闇を、見る。

挑発するように。

闇は笑った。応えるように。

そして闇から白い腕が伸びて、俺の右目に触れた。

ひやりとした、死人の熱。

「良いだろう。俺の望みも、お前の望みも同じだ…力をやろう。…柳苑」

闇は一瞬人の形を取ったように見えた。

「覚悟はあるか?」

「ああ」

答えと共に、全身に重く冷たい圧力がかかったようだった。

全身を寒気が襲って、叫びだしたくなるような凄惨な映像が脳裏を駆け巡る。

これは、記憶。

過去の、闇染零の、記憶。

その死の瞬間までの。そしてその後の。

血の色の。闇の色の。

「さぁ、行こうか」

俺の内側から、そう聞こえた。

「ああ」

この後、何をどうすれば良いのか。

考えなくても、解った。それは自然と、自分の中に流れこんでくる。

闇を背負い、其処から立ち上がり鉄格子に手をかけた。

ひやりとした感触。そしてその感触が俺の体温と溶け合ったように感じたその後、鉄格子は闇色にどろり、と溶け、周囲の闇に同化した。

その分闇の質量が増えたように感じ、その闇が味方についてくれる。

そんな実感が伴った。

 

 

住み慣れた屋敷は、何所に何があって、今父親達が何所にいるのか良くわかっていた。

 

一族の有力者達と話し合いの場を持つときに使われる部屋を、一直線に目指した。

紅く、細い月だけが照らす庭と廊下。

闇を、引き連れて。

赤い着物に染め抜かれた蝶が、歩行に合わせて夜闇を舞う。

黒髪が闇に同化する。

目指す部屋まで、ただ一直線に。

 

 

右目が疼いた。

 

歓喜に。

――念願を果たす、その喜びに。

自然と、笑みが浮かぶのを止めることができなかった。

 

 

此れは、だれの感情なのか。

 

闇染零のものなのか。亜桜柳苑のものなのか。

解からなかった。

しかし、それが不安や恐怖の原因になることはなく、むしろ自然に受け入れる事が出来た。

おそらく、それはどちらかの感情ではなく、二人の感情。

溶け合ってひとつになった感情と人格。

 

 

その証拠に闇染零の声は、聞こえなくなっていた。

 

 

 

その部屋からは沢山の人の気配と、蝋燭の灯りが漏れていた。

 

月の微光が支配する庭と廊下に微かに蝋燭の橙の光が染みを作る。

そこに闇が、落ちる。

雫のように。

闇が灯りを侵食する。

 

 

閉じられた襖に手をかけた。

 

それは、鉄格子を闇に溶かしたときのように、それは闇に解けて消えた。

 

 

 

 

 

消えた襖の先に、閉じ込めたはずの娘の姿を見て、父親は、狼狽していた。

 

集まった有力者達は何が起きたのかわからない。という顔をしていた。

それが、滑稽で自然と声を立てて笑っていた。

それは正に、異常としか言い得ないものだった。

息継ぎもなくただ笑う、その声。

二重に重なる声。

「亜桜殿、これはいった…」

1人の有力者が声を上げたが、その言葉は最後まで紡がれる事はなかった。

永遠に。

笑うことをぴたりと辞めた柳苑がその白い指で弾いた闇で、それは人の形を失っていたから。

頭を失っては、言葉を紡ぐどころか、生きることすら出来ない。

血飛沫すら、闇のまれその場を汚さない。

 

 

柳苑はその部屋を見渡しにやり。と笑う。

 

獲物を狩る捕食者のように。

「滅んでしまえば良い。こんな、閉ざされた一族など」

やけに通る声音だった。

その声に、父親は聞き覚えがなかった。

柳苑の声ではあるが、それだけではない。

「――お前は、誰だ」

「…貴方の娘ですよ。父上……ああ、今はもうひとつ名を貰いましたが…聞き覚えがあるでしょう?闇染、零」

長い黒髪をかきあげて、告げる。

右目の厄災の眼が強調される。

「…闇染、最初の厄災を呼んだ者」

「柳苑が厄災の眼を得たのは、お前のせいか」

「なんと…」

既に1人の仲間が殺されたと言う中でも、彼らは気丈にも逃げずに、その場で柳苑を見ていた。

其処は、評価しよう。そう、笑った。

「流石に有力者、と呼ばれるだけの事はある。これから、どうなるか解らないわけじゃないでしょう?」

首をかしげて、視線で首を飛ばされた死体を見る。

それだけをみれば、歳相応の可愛らしい少女のそれに見えるのだが、この状況ではそう楽観的にな状況ではないことは明確だった。

これは、死刑宣告。

ならば。と、父親は柳苑を見据えて、宣言する。

「我等、夜織の一族は今まで厄災の眼を有するものを、死を持って処分してきた。それが一族の頭領の娘とて変らぬ。更に、今この状況。厄災の眼に支配されたのなら尚更である!柳苑を死罰を持って排除する」

側に置いた刀を、父親は取り鞘からその鍛え抜かれた刀身をすらりと抜き出した。

そして、それを見た残りの有力者も、各々刀をとり構えた。

「支配?まさか…我々は意見の一致が其処にあった。だから今があるのだよ」

くすくすと、笑う。

そして、紛れもない柳苑の声が告げる。

「こんな閉ざされた一族、滅べば良いと。それが俺達の意見の総意」

右手をかるく振ると、そこには刀が握られていた。

闇に、刀の形を持たせた、柄も刀身も闇色の真黒な刀。

「今此処にいる全ての命を奪ったら――、その後は、どうしようか。この界隈を闇で飲み込んでしまおうか」

そういいながら、柳苑は部屋をみたまま廊下の先に、刀を向ける。

どっ。と硬質な物資が、濡れた何かに刺さる音が聞こえ、続いて人が倒れこむ音がした。

部屋の中からは何が起こったかわからない。

説明するように、柳苑は笑みを讃えたまま残酷な言葉を、さらりと放つ。

「さようなら、…母上」

「!貴様!藤菜殿を!」

父より先に誰かが、そう声をあげた。

「だって、可愛そうでしょう。これから此処にいる全ての人の死体を見るなんて…その死体を娘が作ったなんて・・・みたくもないでしょう?」

平然と、楽し気に。

「そうか…解った。もう亜桜柳苑は…存在しないのだな」

「今までの柳苑は、居ない」

一歩、部屋に進む。

刀を、下ろしたまま。

それが、合図だった。

一斉に、攻撃の手が加えられる。

容赦のない一撃。

更に、死角からの攻撃。

1人の少女には耐え切れないほどの物量の攻撃。

しかし、其処にいるのは、ただの少女ではないのだ。

闇を従え、闇を抱き背負い厄災を運ぶもの。

 

 

「所詮、老いぼれの力などこんなものか。他愛ない」

 

攻撃は全て、柳苑には届かない。

その前に闇に飲み込まれる。

「では、永遠にさよならをしましょう。1人ではない。直ぐに家族も後を追いますよ。安心したら良い」

 

 

そして、闇は弾かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ては、紅い月が見ていた。

 

夜織の一族は、一晩のうちに滅んだ。

闇に飲まれ、血溜まりのひとつも作らず。

ただ、身体の一部や、その全てを失って、消えた。

 

 

 

 

 

一族を滅ぼしたあと、みてみたい世界があった。

 

行ってみたい場所があった。

そこは各国が争いを繰り広げる世界だと聞いた。

その何処かの国に忠誠を誓ってみるのも、面白いかもしれない。そう思った。

 

 

 

 

 

もし、夜織の一族のようにつまらない国なら、また闇に飲まれてしまえば良い。

 

 

 

そして、また旅に出るのだ。

 

魂が、落ち着くその場所に出会えるときまで。

PR
Copyright ©  -- 夜光閲覧室 --  All Rights Reserved / Designed by CriCri / Material by White Board
忍者ブログ  /  [PR]